1on1と信頼残高

最近思ったことを書いておく備忘録的なものです。 特に1on1経験が豊富なわけではなく、むしろ経験が浅いので、何を学びながら進めばいいのやらという段階でのものです。

1on1と困りごと

1on1に何を求めるのか?というのはベースになる考え方はありつつも、個人・チーム・組織の状況によって異なると思います。 将来のキャリアパスについての相談やポジティブなことの共有などもあると思いますが、それと同じくらい困ったことを聞くことが多いと思います。

「困ったことを聞いて、(個人が解決できるように or マネージャーが or ...)解決に導く。」これが、チームの生産性向上に寄与するというのはある程度自明に思えますし、 困ったことを話して、解決してくれるマネージャー*1は頼りがいがあり、まさに信頼できる優秀なマネージャー像にピッタリではないでしょうか。

理想と現実

一方で組織の全権を持っているわけでもないマネージャーは、全ての問題を瞬時に解決できるわけではありません。*2 合理的に見えるような解決方法を提案してもらってもなお、すぐに実行に移せないことは多いと思います。 情報の非対称性があったり、単純にリソースの問題でもあり、日々の忙しさにかまけているという場合もあります。(最後のはできるだけなくしたいけど、人間だし早く帰って熱々緑茶を飲みたいというのが人情ってものよ・・・)

開発プロセスを変えたい。差し込みやボトルネックをなんとかしたい。こういった課題には常に挑戦し続けるべきではありますが、一方で次回の1on1までに何か進んでいるのかと言われるとそうではないことのほうが多いのではないかと思います。

そもそもの話

ここまで読んだ方は以下のような疑問をお持ちかと思います。

  • 組織的な問題はともかく個人の問題をマネージャーが”解決する”ってのは違和感があるよね
  • そもそも1on1で出た課題はマネージャーが解決するんじゃなくてコーチングしたりするのが重要でしょ
  • 問題みたいなものが1on1で初めてでるのは普段のコミュニケーションや、ふりかえり(やKPT)などに問題があるのでは?

こういった話もあると思います。そしておそらくこちらの方がより本質的な目的に沿うと思いますが、今回は「僕個人の気づきを記す」ことを目的にしているためこれらの話には触れません。 それらの問題がどうでも良いと思っているわけではなく、単にそういう気付きがあったのでそこをメモしているというスタンスです。(また、結論の部分については個人の掘り下げという意味での1on1の目的にもある程度沿うよねという思いもあります。)

今回は自分の気付きを残すために、もしマネージャーがアクションをとるべき課題が1on1で初めて言われたら?という想定でお読みください。 繰り返しになりますが、これは以下のような状況を意味しません。

  • 心理的安全性が無くて、ふりかえりでは問題が全然出ない
  • 1on1は問題を教えてもらう場で、それ以外のことは全く話されないし目的ではない

想定としては以下です。

  • ふりかえりの場では思いつかなかったけど1on1で話が弾むうちにポロッとでた
  • ふりかえりでも議論してたけど、そこからまた考えが変わったりしていて、実はねといった感じでより深く教えてくれた

ということで”もし、こういうことがあったら”、”あなたはどうする?私はこうする!”形式でお読みください!

マネージャーはスーパーマンではないという話

つい最近までは、「こういった現実の中で、じゃあ理想にどれだけ近づけるのか?」が腕の見せ所だと考えていました。 (マネージャーが解決すべき課題を)10個中3個解決できたからあなたのマネージャー能力は3です。10個中7個解決できたからあなたのマネージャー能力は7です。のように。*3

一方でこうした考え方は、減点法による評価を招きがちではないかと思います。 あれはまだ解決しないのか・これはまだ解決してないのか、いつ解決するのか・・・。 「課題があって、解決できないと信頼残高が少しずつ減って、0になるとチームが崩壊。」これは避けるべきことだと思います。

では、10個課題があって10個課題を解決すれば信頼残高も減らずに済むのでしょうか? たしかにそうだと思いますが、そんな事できる人少ないですよね。 それでもなお、ミスが許されないので心理的安全性もあまりなさそうに見えます。

ちょうど、こういった議論はem.fmやその他の記事でも言及されています。 ep2. Engineering Managerをスーパーマンだと思わないで by EM . FM #EMFM • A podcast on Anchor

理想を変えよう

そもそも「Xという課題があります」に対して、自分は「そうだね、課題だと思う。解決したいな。どうすればいいだろう」と自分の中で勝手に課題認定を行い、解決策を考えはじめてしまっていました。1on1中にactionが決まればハッピーだし、安心感もありますしね。共感力!

一方で、この人は何故Xが課題だと考えたのかについては全然聞かずに勝手に補完していました。 MTGが長いという課題なら、自分の時間が取られるのが嫌なのか、空中戦になって論理的じゃない議論が嫌いなのか、チーム全体の生産性低下を危惧しているのか、興味のない事柄に巻き込まれたくないのか・・とかいろいろ考えられる要因があって、まあ全体的に正論だしそんなに大きくハズレてはいないのだろうけど、一方でその人の価値観や考え方は置き去りです。

そこで、「Xが課題だと思う」という会話に対して、何故Xが課題だと思うのか?という考えを聞くことが大切だと考えるようになりました。

そうすれば、「何を大事にしているのか・何に価値を感じるのか」に踏み込んでいくきっかけになる。そして、価値観や考え方が(部分的にでも)つかめてくれば次の課題が出たときに、「言われて初めて気づいて行動する」のではなく、よりproactiveに行動を起こすことができるようになるはずです。

これは1on1を 課題報告機課題解決機 の同期会場にしないための工夫でもあるし、課題解決の成功・失敗を含めた少しのイベントで容易に増えたり減ったりする信頼(残高)ではなく、「自分のことがある程度分かっていて、それに基づいて行動してるはずだ」という長期的に安定した信頼関係につながるのではないかと思っています。 (もちろん、何か質問を増やした程度である人の価値観が全部わかるなんて到底あり得ないので程度の問題ではあります。)

ということで、そもそもたくさん課題を解決するのがマネージャー力だ!とか、困ったことがあったらできる限り多く解決するのが1on1の理想形だ!といった考え方をそもそも変えるのは大事だなという話でした。(後半の方はなんかいい感じに気持ち良いこと書いてわかったような感じですが、そこまで達観した何かではなく、「課題ですね」に対して「そうですね」と思考停止してスタートするのでは限界があるなという考えを少しだけ掘り下げてみただけです。)

とはいえ、困ったことを聞くということ自体は1on1の役割のうちの1つでしかないですし、困ったことを聞いたとしてもマネージャーが解決するべきものもあれば、コーチング・ティーチングを通して各自に解決を促す・問題解決に向けた話相手だけになれば十分なものなどがあるため、この記事ではそのうちのほんの一部にしか焦点を当てていません。総合的にいろいろ学んでいく必要があるなと感じています。

*1:上司・リーダー・テックリードなど、1on1する人の役職が違う場合もありますね

*2:組織の全権を持ってたとしても難しいですよね

*3:解決と書いていますが、解決以外にも、今は優先度が低いと言った意思決定についての説明をきっちり行うみたいなのも含まれると思います。